国境をまたぐ「トルコ語」
訳あってトルコに来ることになり、生活のためにトルコ語を勉強しましたが、正直勉強し始めの頃は「トルコ(共和国)でしか使えないトルコ語を話せるようになったとして日本に帰国したら何になるのだろう」という思いがいつもありました。
語学学校に行くことで毎日それなりに勉強する必要のある状況に追い込むことができましたが、やっとやる気が出たのはしばらく後で、ある日ふと「トルコ語を身に付けなければならない」と諦念した時でした。
それからはなぜかやる気が出てトルコ語に触れることが苦にならなくなりました。
わたしがそのような出会い方をしたトルコ語ですが、本当にトルコでしか使えないマイナー言語なのでしょうか?
実のところトルコ語は、考えられているよりももう少し広い範囲で使われています。
トルコの東、コーカサス地方にあるアゼルバイジャンの公用語は、アゼルバイジャン語ですが、これはトルコ語の一方言と捉えられています。
これにいくつかアゼルバイジャン語特有の言い回しが入ってきます。
例えば、トルコ語で「ここで(バスから)降りてもいいですか?Burada inebilir miyim?」というのをアゼルバイジャン語では「Burada düşebilir miyim?(※便宜上トルコ語的に表記)」と言いますが、これはトルコ語において「ここから落ちてもいいですか?」という意味になります。
ですので、トルコ語の言い回しを知らないアゼルバイジャン人がバスに乗って降りる時にアゼルバイジャン語的に「ここで降ります」と言ったら、運転手は「??」となってしまいます。
それと、アゼルバイジャンはソ連の構成国家の一つだったので、ロシア語由来の単語も多く入っています。
Youtubeでアゼルバイジャン語の番組を観たら、トルコ語にないいくつかの単語を除いてそのままトルコ語でした。
言葉の雰囲気としては、トルコ語をもう少しペルシア語のようなリズムでなめらかに話した感じです。聞き始めのうちは分かりにくいのですが、耳が慣れて来ると言ってることがはっきり分かるようになってきます。
②イラン西部
アゼルバイジャンの南に位置しタブリーズなどの都市があるイラン西部の牧草地帯にはトルコ系の住民が多く住んでいて、「イラン人がそこに行ってペルシア語を話したらトルコ人に殴られる」と揶揄されるほどトルコ語が話されている地域なのだそうです。
トルコ人は中央アジア起源で西に移動しアナトリアやその先まで拡大したと言われていますが、イラン西部に住むトルコ系の人々は長い間ここに暮らし続けているようで、そのため彼らのトルコ語はギリシアやヨーロッパなど別の文化の影響を受けない「純正なトルコ語」と言われているようです。
これまたYoutubeで見ましたが、トルコ語と同じでした。ところどころペルシア語の単語が使われていたり、トルコ語と発音の異なるものもありました。
例えば「緑」をトルコ語では「yeşilイェシル」と言いますが、イランのトルコ人は「ヤシル」と発音していました。
③中央アジアのトルコ系国家
中央アジアにはカザフスタンやウズベキスタンなど「-スタン」で終わる国名の国がたくさんありますが、これらはどれもトルコ系です。
カザフスタンのカザフ語やウズベキスタンのウズベク語などはトルコ語と同じ言語集団だそうです。
しかし、わたしはカザフスタンに行った時にトルコ語と共通の数字やいくつかの単語を除いてまったく分かりませんでした。
発音がトルコ語と大きく異なり、単語もトルコ語にない単語も多く、特に昔ロシア帝国やソ連の一員だったためロシア語の影響が強いようです。
ただ、トルコと中央アジアの関係は深く、例えばカザフスタンにはトルコ語学校があったりとトルコ語学習者がそれなりにいるので、彼らとトルコ語で会話することは可能です。
④グルジア
トルコの北東、黒海の東端に位置するグルジアは、キリスト教の国であり民族的にも言語的にもトルコとまったく異なりますが、トルコと陸続きで商業や観光面で交流が活発なため、トルコ語を話せる人もそれなりにいます。
グルジアのあるタクシーの運転手は、グルジア語、英語、ロシア語、トルコ語の四か国語を知っていました。
⑤世界各地のトルコ系移民
トルコ系の移民はヨーロッパを中心に世界中に住んでいます。最近はケバブ屋の勃興とともに日本でも目にする機会が増えてきました。
日本に住むトルコ人が日本を流暢に話すように、彼らはそれぞれの滞在国の言葉を話しますが、もちろんトルコ語を知っています。
たとえばオーストリアにもトルコ人はたくさん住んでおり、お土産物屋やホテルで働くトルコ人とはトルコ語で話が進みました。
知っている限りでもトルコ語はトルコ共和国に限らずコーカサス地方の国々やイラン西部を中心に、中央アジア方面へグラデーション的に広がりつつ、最終的にはトルコ人のいるところどこでも全世界的に話されているグローバルな言語なことが分かりました。
英語の通じない国で、意外とトルコ語の方が通じたりすることがあるかもしれません(ありました)。