ひつじの国からメェるはバァ

トルコ☆ローカル☆見聞録

トルコ語の「海」

日本語で海という時、一般に塩水を指すと思います。それも陸地で閉ざされていない開放的なところです。たとえば太平洋、日本海、インド洋、大西洋などがあります。

塩水でも陸地で閉ざされていれば「塩湖」のように湖と考えます。

 

トルコ語で海のことを「deniz デニズ」と言います。

ですが、元々は日本語の海とはちがったものを指していました。

トルコ人の故地は中央アジアで、そこから西に進んで今のトルコにやって来ました。

彼らに伝わる始祖伝説が、「オグズ・ハーン伝説」です。その中で、伝説的始祖であるオグズ・ハーンには6人の息子について触れられています。

 

ギュン・ハン (ギュン:太陽)

アイ・ハン (アイ:月)

ユルドゥズ・ハン (ユルドゥズ:星)

 

ギョク・ハン (ギョク:空)

ダー・ハン (ダー:山)

デニズ・ハン (デニズ:海)

 

ギュン・ハン、アイ・ハン、ユルドゥズ・ハンが天空にあるものの名前で、対するギョク・ハン、ダー・ハン、デニズ・ハンはいずれも地上にあるものの名前です。

その中に、「デニズ:海」という名前が出てきます。

 

しかし、オグズ・ハーン伝説が生まれた頃のトルコ人中央アジアにいました。中央アジアは内陸地帯で、いわゆる海は存在しません。

では「海」とは何を指したのでしょうか?

 

ここでいう「海」とは、歩いて、あるいは馬に乗って渡ることのできない水系すべてなのだそうです。ですから、河川もこれに含まれます。

ただし、同じ河川でも歩いたり馬に乗って渡ることができる場合は、「海」に含まれません。

その「海」を渡るための道具が、舟(kayık カユク)でした。

 

その後トルコ人が西進して、地中海や黒海を見ることで、「海」の概念は広がり、いわゆる塩水を指すようになりました。

ちなみに、トルコ語で「海で航行する」ことを、「denizde yürümek (直訳:海を歩く)」と言います。

 

さて、トルコは黒海と地中海(エーゲ海を含む)に接しており、彼らにとって一番身近な海はこの二つです。

黒海イスタンブルで閉じられ、地中海はジブラルタル海峡で閉じられた一つの水域です。大きなプールみたいなものです。それをトルコやシリア、南欧北アフリカの国々が囲んでいます。

対して日本は、どこまで行っても閉じられることのない海に囲まれています。

 

トルコ人と日本人の間で、「海」と聞いて思い浮かべる世界はだいぶ異なっていると言えるでしょう。