イスタンブール新空港レビュー
4月の第一週目のどこかに、イスタンブール新空港が開港しました!
去年の10月開港予定が11月に延期され、3月にも間に合わず、やっと完成しました。
最初に言っていた時から実に約半年経っています。まあ予定通りになるとは最初から期待していませんでしたが。
しかしまだまだ工事途中のところもあり、なんとイスタンブール中心地までのアクセスはバスかタクシーのみと不便なこと・・・
正直これまで国際線ターミナルとして使われていたアタテュルク空港に何の問題もなかったのに、なぜこんなことを?!と思ったものでした。
新空港ができるまでに、空港の名前を何にするかずいぶん議論がありました。
最初の国際空港であるアタテュルク空港は、トルコ共和国建国の父であるケマル・アタテュルクから取ったもの。
これに倣って、新空港は現大統領エルドアンの名前が付けられるのではないかと噂になりました。(大統領の側近たちがヨイショしたものの大統領自身は固辞したという嘘臭い茶番付き)
大統領は過去に自分の名前を冠した公共物を建てています。例えばリゼのレジェプ・タイップ・エルドアン大学。
リゼは黒海に面する有名なお茶の産地で大統領の故郷であり、大統領はリゼのある大学に自分のフルネームを付けて新しい大学に改編したのでした。
大統領はイスラームを重視しておりアタテュルクの政教分離の方針とは対立する立場を取っています。
大統領の政策によって、建国の父としてトルコ国民の敬愛、崇拝の対象だったアタテュルクもだんだんと重視されなくなってきたようです。なぜか世俗派の多いトルコ第三の都市イズミルを除いて。
市庁舎の正面にはアタテュルクの巨大な肖像の隣にでかでかと大統領の肖像が並べられています。
ですから、これまで国際空港として機能していた「アタテュルク」空港を閉鎖して、「エルドアン」空港を開港することで、トルコ内外にアタテュルクに代わる国の象徴としての自分を宣伝しようとしたのではないか、と筆者は考えていました。
ところが名前が発表されてびっくり、なんと新空港の名前は「イスタンブル空港」。
「イスタンブル空港」
なんのひねりも意味合いもないプレーンな名前。
というわけで新空港は名前の上では政治的意味合いを一切無くした空港としてスタートしました。
さて、この新空港、「世界一大きな空港」をスローガンにしているとのことです。
さっそく使ってきました。
国際線から国際線に乗り換える時、飛行機を降りてから国内線の入国審査口にたどり着くまでに(計ってませんが)おそらく30分ほど。
とにかく道が長い。歩いても歩いても何のために置かれたのか分からない謎のオブジェやお手洗いを通り過ぎるだけです。
やっと入国審査場に着いた~と思ってもそれは国際線の方で、国内線のはまだ先にあると言われました。100メートルくらい歩いた先に入国審査場と書かれた看板があったので行ってみたら、もう一つの国際線の入国審査場でした。二つも必要があるのか?
その入国審査場2を通り過ぎてから約15分(計ってないですが)、おそらく1キロ近く歩いたところでようやく国内線の入国審査場に着きました。こちらも二つありました。
早朝とはいえ利用者は筆者のみ。赤いテープで仕切られた長い通路もむなしく見えました。
たしかに「世界一大きい(かもしれない)空港」ですが、大きいだけのことに何の意味があるのでしょう。大事なのは利便性ではないのでしょうか。
内装もシルバーに黄色のアクセントを利かせたモダンっぽいデザインですが、お手洗いの設備はこれまでと変わらず、エスカレーターの手すりとステップは仕上げが粗く、突貫工事のような手抜きな印象を受けました。まあ、空港に限らず他の建物もそんなものですが・・・
そう思いながら歩いていると、どこかで見たことがあるような、懐かしいような気分になりました。天井はいくつものドームが連なり、間には古代ギリシア遺跡のような下膨れた円柱が並んでいる。
イスタンブルのスレイマニエ・モスクのような。あるいはブルー・モスク?
おそらく、空港の内装はモスク風にしたのではないか。
そう気づいた瞬間、自分はモスクにいるような感覚になりました。
そして、少し恐ろしい気持ちになりました。
「世界で一番大きな空港」を謳うこの空港は実のところモスクで、トルコ人/外国人、ムスリム/非ムスリムを問わず世界中のあらゆる国籍・宗教の人々をドームの下に包み込んでいる。イスラームこそが世界に君臨する。
そのように言っているように感じました。
名前や外装という外に見える形ではなく、内にメッセージをこめている。しかもそれを我々が利用することで成り立つ。(ベンチのある芝生の休憩スペースを檻で囲って入り口に「ヒト」と書いた看板を掲げたとある動物園を思い出しました)
これなら、分かりやすく堂々と「エルドアン空港」と名付けてくれた方がよかったかな。