ひつじの国からメェるはバァ

トルコ☆ローカル☆見聞録

村人の知恵:バスのタダ乗り方法

 とある町へ行くために、長距離ノンストップのバスに乗っていた時のこと。

 まっすぐに続く道の両脇には、畑が広がり、所々小さな商店らしき建物やガソリンスタンドが見えました。遠くには山がそびえています。

 その時、道の脇で野菜か何かが入ったビニール袋を抱えたもんぺ姿の中年女性が立ってこちらに手を振ってきました。

 止まったバスに女性が乗り込むと、女性は100リラ札(トルコの通貨リラの中で最高額の紙幣。日本円でいう1万円札のようなもの。現在のレートで約2,000円の価値)を運転手に渡し、お釣りをもらった後、約2キロ先で降りて行きました。バスはそれから終着点に向けてさらに数十キロ走り続けました。

 

ここで問題です。

問:この中年女性は何をしたかったのでしょうか?

 

 

 

ヒント:

・トルコの長距離バスは、出発地と終着地点の他、決まったターミナルでしか乗客を載せないし、降ろさない

・バスに乗ってから運賃を払う

・トルコの紙幣の額は、5、10、20、50、100

・運賃の額は、10の倍数か5の倍数のキリの良い数字

・トルコでは近距離移動の際、「ミニバス」という近距離移動用のバスに乗る。運賃は2~6リラ程度で小銭で払う

 

※ちなみに、この出来事が起きた時、筆者は運転手と補助乗務員(トルコの長距離バスに必ず同乗する人。運賃を集めたり、点呼をしたり、飲み物を配ったりする)のすぐ後ろの席にいてやり取りを見ていました。

 

 

答(筆者の推論):中年女性はバスにタダ乗りしたかった(でも失敗した)

 

 長距離バスは通常、途中で乗客を拾うことはありません。しかし、周りに何もない場所で村人風の中年女性に呼び止められれば、運転手も親切心からバスを止めるでしょう。

 バスに乗って走り出した頃に添乗員に行き先を言い運賃を尋ねます。通常の事ではないので、乗務員は運転手に相談し、近距離だからとミニバスと同じ料金、おそらく4リラ程度と決めたと思われます。そして運賃を女性に言いました。

 ところが、女性は最高額の紙幣である100リラ札を出します。おそらく他に細かいお金はないと言ったのでしょう。

 この時、女性はバス側に細かいお金がないことを予測していたと思います。長距離バスの運賃は5か10の倍数で、紙幣で支払う額だからです。お釣りが出せないのと、大した額ではないからと言う理由で、バス側から運賃はいらないよと言われるのを期待していたことでしょう。

 しかし、運転手に小銭があったので、それでお釣りが出せることになりました。したがって、女性はきっちりと運賃を支払うことになったのでした。

 100リラ札を出された時に運転手が「彼らは分かってやっている」というようなことを口走ったので、運転手も女性の企みには気づいていたと思います。女性が降りた後も沿道には同じような格好をした女性たちが何人もいてバスに手を振っていましたが、もう運転手はバスを止めることはありませんでした。

 

 

おそらく、その地域の村人たちは皆、この方法を知っているのしょう。

顔も知らぬ遠方から来て通り過ぎるだけの遠距離バスの運転手に対してだからこそ、なおさら心情的にもやり易かったのであろうと思われます。

 

それにしても、人間の心情や感覚をうまくつかんで得しようとする彼らの行いは、ほめられたものではありませんが、大変賢いものだと感心してしまったのでした。